企業との共同研究やベンチャー起業など、実際に研究成果の社会還元に取組もうとすると、共同研究プロジェクトのリーダーあるいはベンチャー企業の経営者として果たすべき責任や利益追求と、大学の教職員として果たすべき責任(例えば、学生に教育を施す責任や大学の施設設備の管理等)とが、いわば衝突しているように見える状況が生じてきます。産学連携活動やベンチャー起業を推進していくにあたり、必然的に生じるこのような状況は「利益相反」(Conflict of Interest, COI)と言われています。
利益相反は大学の教職員が研究成果の社会還元を実現するにあたって避けることができないものですから、利益相反に身を置くことをむやみに躊躇したり、恐れたりする必要はありません。重要なことは、複数の相反する立場とそれに伴う責任を十分に理解し、これらを公明正大に両立させるための努力(利益相反マネジメント)を怠らないことです。利益相反のマネジメントを間違うと、社会的に非難され、場合によっては法律で裁かれることにもなりかねません。
本学は、大学が行う教育や研究への信頼が損なわれないように、また、産学連携活動やベンチャー起業が公正かつ円滑に促進されることを目的として、利益相反ポリシー、利益相反マネジメント規則や規程を制定しています。
これらに則り、利益相反マネジメント室は全ての教職員の産学連携活動を支援しています。利益相反マネジメントの相談を希望される場合には、下記の連絡先までお気軽にご相談ください。
【利益相反の対象者の範囲】教員、職員、ポスドク
神戸大学の利益相反に関するポリシー、規則や規程などを詳しく知りたい方は、下記のページをご覧ください。
1.利益相反とは何か
大学と企業、行政府、民間団体等との間で行なわれる協力研究や技術移転等、いわゆる産学官民連携活動は、新しい技術や経営手法の開発、立法や行政施策立案への専門的助言などを通じて、大学が「知」を社会に還元し国際社会・地域社会に貢献するという重要な活動です。すなわち、下図に示すように、大学のコア的使命である教育・研究に加えて第3の使命である研究成果の社会還元が国レベルで期待されています。そのため、神戸大学は産学官民連携活動を、今後よりいっそう積極的に推進します。
産学官民連携活動を進めることにより、職員等もしくは大学と連携先との間に当然利害関係が発生し、経済的利益などの利益が生じます(経済的利益を得ることは正当な行為であり、またそれらの利益の一部は、いわゆる知的創造サイクルを通じて大学における教育研究推進のリソースに活用されます)。そのため社会的使命より個人又は組織的な利益を優先させて活動していると疑われたりするなど、大学の社会的信頼が損なわれ得る状況、すなわち利益相反の状況が起こり得ます。このように、産学官民連携と利益相反はいわば車の両輪であり、利益相反の状況の発生は必然と考えるべきです。
利益相反は、あえて一文で定義すると「個人もしくは大学)の経済的利益が研究の遂行並びに結果の報告における職務上の判断に影響を与えるかもしれない、もしくはそのように見られる状況」です。
利益相反を詳しく分類すると、下図のようになります。広義の利益相反は、狭義の利益相反と責務相反に分かれ、さらに前者は個人としての利益相反と大学組織としての利益相反に分類されます。
<利益相反とは>
2.利益相反による弊害
3.利益相反マネジメントの必要性
利益相反は、倫理規定や就業規則などで規定される白黒のはっきりした事実ではありません。
社会にどう映るかが問題となる状況であるため、判断基準として絶対的なものはなく、言わばグレーの領域とならざるを得ません。
従って、利益相反に伴うこのような弊害を解消あるいは未然に防ぐためには、利益相反を防止するというよりそれをマネジメントすることが必要となります。そのため、利益相反に対する基本的な考え方やマネジメント体制などを定める必要があります。
利益相反マネジメントは、職員等から産学官民連携活動に伴う個人的利害の情報の開示をベースに行います。その情報に基づき、産学官民連携活動を、大学の社会的信頼性、尊厳や公正さの確保という観点から分析し、利益相反による弊害の発生が懸念される場合などは、必要な処置を取ってそれを解消したり、未然に防ぐ最大限の努力をすることとなります。万が一、このようなマネジメントに拘わらず、社会から指弾されるなどの事態が惹起した場合は、職員等個人自らではなく、神戸大学が社会に対して説明責任を負います。
利益相反マネジメントの目的は、以下のようにまとめることができます。
4.利益相反の事例とマネジメント
利益相反に関する理解を促進するために、一つの利益相反事例を取り上げます。
この事例は、教員等が公的資金を使って、自らあるいは同僚などが関与する大学発ベンチャーから資材の購入を予定しているケースです。
購入を予定している時点は、発注プロセスによっては個人的利益に繋がる行為であるとの指摘を受けかねない潜在的(ポテンシャル)利益相反の状況で、社会的信任が阻害される可能性がある状況と言えます。実際の購入に際しては、利益相反マネジメント室のコンサルティング等を受けることなどにより、 他社製品との競合見積などを実施後、正当に評価してこの資材が研究目的に合致する最適の品であると結論の基に購入したとします。 この購入行為は当然ながら正当なものであり、全く指弾される理由はありませんが、この評価の実施を知らない社会からは大学の社会的信任を阻害する行為であると指摘される可能性は否定できません。つまり、この状況は、推定的(アピアランス)利益相反の状況です。しかしながら、利益相反マネジメント室等の審査を経て大学が、他社品との競合見積評価に基づく正当な商取引であり弊害はないと公式に対外説明することにより、解消することができます。
しかしながら、職員等自らの判断で競合見積などを行わずに、この大学発ベンチャーから購入したとすると、これは、利益相反による弊害が実際に発生したと言わざるを得ないという状況となります。つまり、この場合には、顕在化(アクチュアル)利益相反状況となり、社会的信任の阻害が現実化します。
このように、何らかの個人的利害が絡む可能性のあるときは、社会的常識に基づく慎重な判断に加えて、利益相反マネジメント室への事前相談などによるマネジメントが必要と考えられます。
5.利益相反マネジメント体制
利益相反マネジメントの体制を図示すると、次のようになります。
6.臨床研究等に関する利益相反マネジメント
臨床研究分野など、その内容が高度に専門的であり、倫理面等重要な問題を抱えているような研究分野については、他の分野の利益相反マネジメントとは区別して取り扱われるべきだと考えています。そのため、臨床研究等に関する利益相反マネジメントについては、ポリシーや規程を別途定めています。
利益相反マネジメント室
TEL:078-803-5423
ksui-coi[AT]office.kobe-u.ac.jp ([AT]を@に変更して下さい)